東京地方裁判所 平成9年(ワ)2957号 判決 1998年5月28日
主文
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。
二 被告は、原告に対し、金九〇四万八九九一円及び内金一二四万二六六〇円に対する平成九年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告に対し、平成九年一〇月一日から別紙物件目録記載の建物の明渡済みまで一か月九〇万円の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、被告の負担とする。
六 この判決は、仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
一 申立て
1 原告
(一) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。
(二) 被告は、原告に対し、金五六五万五〇〇〇円及び内金一八〇万五〇〇〇円に対する平成八年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 被告は、原告に対し、平成九年一月二八日から別紙物件目録記載の建物の明渡に至るまで一か月九〇万円の割合による金員(端数は日割計算とする。)を支払え。
(四) 訴訟費用は被告の負担とする。
(五) 仮執行宣言
2 被告
請求棄却
二 事案の概要
1 本件は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の賃貸人である原告が、賃借人である被告に対し、被告が賃料減額を請求して以降、一方的に従前賃料額(四五万円)から一〇万円を減額した賃料を支払い続けていることが賃料不払いないし信頼関係を破壊する行為に当たるとして賃貸借契約を解除したことを理由に、本件建物の明渡し及び未払賃料等の支払いを求めている事案である。
本件の争点は、本件の具体的事実関係の下において、被告に賃料不払いないし賃借人として信頼関係を破壊する行為があったといえるか(信頼関係を破壊しない特段の事情があるといえるか。)という問題である。
2 基本的事実関係(証拠を摘示しない事実は争いのない事実である。)
(一) 原告は、平成五年四月一日、被告に対し、その所有に係る本件建物を、期間・二年間、賃料(管理費込み)・一か月四五万円(毎月末日限り翌月払い、指定口座に振込み。)、契約更新料・新賃料の一か月分相当額、違約金・契約終了後明渡完了まで賃料額の倍額とする等の約定で賃貸し(以下「本件契約」という。)、引き渡した。
(二) 本件契約は、平成七年三月三一日までに格別更新の合意がされることなく、同年四月一日以降、従前と同一の条件で法定更新された(被告は、平成七年三月中に同年四月分の賃料として四五万円を原告に支払った。)。
(三) 被告は、平成七年四月二五日付の手紙で原告に対し、本件賃料が社会経済事情の著しい変動(下落)と付近の家賃との比較によって不相当となっているとして、同年五月分以降の賃料を一か月三五万円として支払う旨申し入れ、同月分以降の賃料として右金額を原告の指定口座に振り込んだ。
(四) 原告は、本訴の訴訟代理人である弁護士を代理人とし、被告の本訴の訴訟代理人である弁護士が被告の代理人をしていることを知ったとして、同年六月二六日付(同月二七日到達)の内容証明郵便で、同弁護士に対し、賃料減額の協議に応じる旨を指摘しつつ、賃料減額の協議が整わないときは、賃貸人は、賃借人に対し、減額を正当とする裁判が確定するまでは、賃貸人が相当と認める賃料の支払いを請求することができる旨を定めた借地借家法三二条三項の規定を引用した上、協議が整うまでは、原告が相当賃料額と認める一か月四五万円を基礎として、更新料一か月分並びに同年五月分及び六月分の賃料差額(合計六五万円)を支払うべき旨請求し、一〇日以内に回答することを要求した。
(五) これに対し、被告は、本訴訴訟代理人弁護士を代理人とし、同年七月一一日付(その頃到達)の内容証明郵便で原告代理人に対し、賃料額としては一か月三〇万円が相当と考えるが、五万円上積みして支払っていると被告側の認識を表明した上、協議の申し入れをした。
その後、原告被告双方代理人の間で協議が継続され、その中で、原告側は、更新料を四五万円、同年五月以降の賃料を一か月三七万円まで譲歩する案を、被告側は、更新料を含め、一か月分三六万円まで譲歩する案をそれぞれ提示したが、それ以上協議は進展せず、合意に達しなかった。
(六) このような状況を踏まえ、原告代理人は、同年一〇月二七日付(同月三〇日到達)の内容証明郵便で被告代理人に対し、当面直ちには協議が成立するとは考えられないとの認識を示し、双方の信頼関係に基づいて今後の協議を適正に続行してゆくための前提として、まず、被告において、更新料四五万円及び同年四月分以降の賃料として一か月四五万円の割合による金員との差額を支払うべき旨を要求し、一〇日以内に回答するよう求めた。
(七) しかし、被告は、これに回答しないまま、従前どおり、一か月三五万円を賃料として振り込むことを継続した。
そこで、原告代理人は、平成八年六月一一日付(同月一二日到達)の内容証明郵便で被告代理人に対し、更新料四五万円及び平成七年五月から同八年六月分までの一四か月分の請求賃料との差額合計一四〇万円を二週間以内に支払うべきこと、今後、毎月の賃料として四五万円を弁済期に支払うべきことを催告し、右催告期間内に右支払いのないとき又は毎月の右賃料の支払いのないときは、本件契約を解除する旨の意思表示をし(以下「本件解除」という。)、更に、同年七月三一日付(同年八月一日到達)の内容証明郵便で被告代理人に対し、本件契約は同年六月二七日の経過をもって解除されたことを通告し、本件建物の明渡及び更新料、未払賃料差額及び明渡に至るまで賃料額の倍額の約定違約金の支払いを求めた。
(八) 原告は、平成九年二月一七日、被告に対する本訴を提起した。
(九) 被告は、平成九年七月一一日、原告に対し、賃料減額請求をしたことを理由とする本件契約の賃料額確認の訴えを提起した(当裁判所平成九年(ワ)第一四三二二号事件、以下「別訴」という。)。
3 争点に関する当事者の主張
(一) 原告
(1) 賃借人が賃料の減額請求をする場合においては、賃貸人は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、賃借人に対し、自己の相当と認める賃料の支払いを請求することができるのであって(借地借家法三二条三項)、賃借人が単に自己の相当と認める賃料額を支払うにとどまるときは、賃料不払いの責を免れることはできない。
原告は、本件契約については、一か月四五万円の従前賃料額を相当賃料額であると終始認識して(原告が右金額を主観的には相当額と認識していなかったということはない。)、被告に対しその旨主張し、支払催告していたのであるから、被告としては、右金額を支払う義務があることは明らかである。それにもかかわらず、被告は、一〇万円もの大幅な減額をした金額を一方的に賃料相当額として継続して支払う挙に出たのであるから、右被告の行為は、賃料不払いに当たるにとどまらず、賃借人として賃貸人との信頼関係を破壊する行為というべきであって、原告のした本件解除の意思表示は有効である。
(2) そこで、原告は被告に対し、次の請求をする。
a 本件建物の明渡
b 未払の更新料四五万円及び平成七年五月分から本件賃貸借契約終了日である同八年六月二七日まで一三か月二七日分(平成八年六月分は日割計算)の未払賃料差額合計一三五万五〇〇〇円並びに以上合計一八〇万五〇〇〇円に対する前記平成八年六月一一日付内容証明郵便到達の翌日である同月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払い。
c 本件賃貸借契約終了の翌日である平成八年六月二八日から本訴提起前の平成九年一月二七日まで、月額九〇万円(賃料額の倍額)の割合による違約金合計六三〇万円から平成七年七月末日から平成九年一月末日までの間に被告から振込があり違約金の内金として受領した合計二四五万円を控除した残金三八五万円の支払い
d 平成九年一月二八日から本件建物の明渡済みまで毎月九〇万円の割合による約定違約金の支払い
(2) 本訴における鑑定の結果によっても、原告の請求額が原告において主観的に相当賃料と認めた金額であることは左右されない。当時の賃料相場等に照らしても、これが「賃貸人が相当と認める金額」と認定することが不合理であるという事情はない。
(3) 賃料減額を求める賃借人が自己の相当と認める金額で賃料を支払っていれば債務不履行を免れるという法理はない。
(4) 本件契約の信頼関係は、被告の不誠実な態度により全く破壊されている。
(二) 被告
(1) 被告は、本件契約の更新期に原告と賃料減額について協議することを望んでいたが、その機会を与えられることもなく、また、日本に居住していない原告との連絡もままならない状況において、自己の判断で止むを得ず、賃料を三五万円に減額せざるを得なかったのである。
(2) 賃料減額請求につき当事者間に協議が整わず、賃貸人が従前額を賃料として請求する場合において、賃貸人が右金額を主観的に相当と認めていないときは、借地借家法三二条三項にいう相当と認める賃料を請求したことにはならないと解すべきである。そして、右にいう相当と認める賃料とは、単に主観的に相当と認めるだけでは足りず、客観的にも相当と認められる範囲内の金額でなくてはならない。いわゆるバブル経済の崩壊後において、本件建物周辺の賃料相場が大幅に下落していたことは周知のところであるから、原告が請求した一か月四五万円の賃料額は、客観的に相当と認められる範囲内の金額であるということはできないのみならず、原告としても、主観的に、右金額が相当賃料に当たらないことを認識していたものというべきである。
したがって、原告は、被告に対して、借地借家法三二条三項にいう相当と認める賃料を請求したことにはならないというべきであるから、原告のした支払催告は効力を有しない。
(3) 被告は、原告に対し、客観的な相当賃料額を上回る一か月三五万円の賃料を支払ってきた。これは債務の本旨に従った履行であるから、被告には債務不履行はない。
(4) 仮に、被告が支払ってきた賃料が相当額を下回っていたとしても、その金額は僅かであり、これまでの原告の賃貸人としての修繕義務違反、原告の請求賃料の高額性、原告との交渉不能状況、賃料減額交渉における不誠実性等の事情を総合すれば、原告と被告の賃貸借関係の信頼関係を破壊しない特段の事情があるから、本件解除の意思表示は、その効力を生じない。
(5) 被告は、平成九年九月二九日、原告に対し、本訴で実施された鑑定の結果に基づく平成七年四月二五日時点の本件建物の賃料相当額である一か月三六万六六〇〇円(この鑑定結果にも多々疑問がある。)を基準として、更新料部分七三万三二〇〇円(平成七年四月一日及び平成九年四月一日支払分)、平成七年五月から同九年九月分まで(二九か月分)の不足賃料部分合計四八万一四〇〇円を支払った。
三 当裁判所の判断
1 被告の賃料不払いの有無について
(一) 借地借家法三二条一項は、建物賃貸借の賃借人に対し、賃料減額請求権を認め、同条三項は、その効果につき、「建物の借賃の減額につき当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者(賃貸人)は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。」と定めている。
この規定は、賃料減額請求権が当該請求権行使によって法律関係の変動を生じる形成権であることを前提として、その行使によって定まるべき客観的な相当賃料額と当事者の認識する主観的な賃料相当額とのギャップによって生じる賃料不払いを巡る紛争を防止するため、そのような場合においては、賃貸人は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、賃借人に対し、自己が相当と認める額の賃料の支払を請求することができるものとして、賃貸人の認識に暫定的優位性を認めて、賃借人に右請求額を支払うべき義務があるものとし(したがって、賃借人が右請求賃料の支払いをしないときは、賃料不払いとなるという危険を免れないことになる。)、後日、減額を正当とする裁判が確定した段階において、賃貸人が右確定賃料額を超えて受領した賃料があるときは、賃貸人は、右金額に年一割の割合による法定利息を付して賃借人に返還すべきものとして、賃借人の被った不利益の回復を図るものであって、この種紛争の解決のルールを定めたものである。そして、右規定にいう「相当と認める額」とは、右規定の趣旨に鑑みると、社会通念上著しく合理性を欠くことのない限り、賃貸人において主観的に相当と判断した額で足りるものと解するのが相当である。
(二) 前記の事実関係によると、被告がした賃料減額請求に対し、原告は弁護士を代理人として対応し、被告の代理人である弁護士に対し、賃料減額の協議に応じる旨を指摘しつつ、借地借家法三二条三項の規定を引用して、協議が調うまでは、原告が相当賃料額と認める一か月四五万円を基礎として、更新料及び同年五月分以降の賃料を支払うべき旨請求し、その後協議を継続した結果、直ちには合意が成立しないとの認識のもとに、今後の協議を適正に続行するための前提として、被告において、更新料四五万円及び同年五月分以降の賃料として毎月同額の割合による金員を支払うべき旨を請求したが、被告は、これに応じることなく、終始自己が相当と判断した三五万円の割合による金員を支払うにとどまったものである。
そして、《証拠略》によると、原告は、右の当時、本件契約の仲介を依頼した不動産業者の報告等により、四五万円の金額は、本件建物の月額賃料として相当な額であると認識していたものと認めることができるし(協議の過程で、原告が三七万円との譲歩案を示したことがあったとしても、交渉の過程における一提案なのであるから、この提示によって原告の主観的認識が変化したものと認めるべきではない。)、右証拠によると、原告が相当と判断した右金額が社会通念上著しく合理性を欠くものと評価することもできない。後日にされた後記鑑定の結果等をもって、原告のこの判断を不当とすることは当を得ないものというべきである。この点を争うに帰する前記の被告の主張は、以上の説示に照らし、いずれも採用することができない。
そうすると、被告は、借地借家法三二条三項に従い、原告の請求に応じて、平成七年五月分以降、減額を正当とする裁判確定までの間、一か月四五万円の割合による賃料を支払うべきであったにもかかわらず、これに充たない三五万円の割合による賃料を支払ったにとどまるのであるから、賃料不払いの評価を受けることを免れることはできないものというべきである。
2 本件解除の意思表示の効力について
(一) このような状況下において、原告が、被告に対し、本件解除の意思表示をしたことは前記のとおりである。
(二) 被告は、前記のとおり、本件賃貸借の信頼関係を破壊しない特段の事情があるとして、本件解除の意思表示はその効力を生じないと主張する。
しかしながら、本件に顕れた全証拠によるも、原告がことさら被告との連絡を困難にしたとは認められないし、(《証拠略》を総合すると、被告の賃料減額の希望は、本件契約の不動産業者を通じて、原告に伝わり、原告の意向が示されたが、被告自らがその後の弁護士に交渉を委ねる意向を示したため、原告がこれに応じ、前記認定のような双方弁護士を通じての協議がされるに至った経緯を窺うことができる。)、被告の主張する修繕義務違反についても、協議の過程でそれらが問題とされた証拠はなく(《証拠略》によると、被告から申出のあったエアコンの修理については、原告は適切に対応していることが認められるし、そのほかの問題も本件解除の効力に影響するものとは認められない。)、前記の賃料減額交渉における原告の態度が不誠実であるとも認めることはできない。そして、このような場合において、被告が、自己の相当と認める賃料額を支払うことによってその責を免れるものでないことは前記のとおりであるところ、原告の明示の催告の後においてもこれを改めることなく、一切これに応じないまま、結局、前後一年以上にもわたって、この態度を継続した被告の行動は、前記借地借家法の規定の趣旨に沿わないものというほかなく、その後においてされた後記の鑑定の結果を考慮してもなお、原告と被告の賃貸借関係の信頼関係を破壊しない特段の事情があるということはできないものというべきである。
(三) そうすると、原告のした本件解除の意思表示は、有効なものとして、その効力を生じたものというべきであるから、本件契約は、平成七年六月二七日の経過とともに終了したものである。
3 原告の請求について
(一) 本件建物の明渡請求について
以上によれば、被告は、原告に対し本件建物を明け渡す義務がある。
(二) 賃料等支払請求について
(1) 被告が、平成九年七月一一日、前記の賃料減額請求をしたことを理由として本件賃料の確定を求める別訴を提起したことは、当裁判所に顕著であるが、右訴えは、本件解除が効力を生じた後にされたものであり、現時点においては、未だ、減額を正当とする判決がされていない状況にあるから、本件契約終了に伴って被告が原告に支払うべき賃料及び賃料相当損害金等は、原告の前記請求額である一か月四五万円を基礎として算定されるべきものと解される。右減額請求権行使時における本件建物の相当賃料額について、鑑定人高橋健の鑑定の結果(平成七年四月二五日時点の月額支払賃料額三六万六六〇〇円)のほか、甲一四号証(不動産鑑定士西賢治作成の不動産鑑定評価書[平成七年四月一日時点の月額支払賃料額四二万六〇〇〇円])、乙一一号証(不動産鑑定士沢野順彦作成の不動産鑑定評価書[平成七年四月二五日時点の月額支払賃料額三二万二三〇〇円])が提出されているが、本訴においては右相当賃料額を確定させることはできず、その作業は別訴においてされるべきものであり、右訴訟において減額を正当とする裁判がされ、これが確定したときは、その結果に基づいて、賃料については借地借家法、更新料及び賃料については民法に基づいて、それぞれ超過支払額について償還がされるべきものである。
《証拠略》によると、被告が、平成九年九月二九日、原告に対し、前記鑑定の結果(一か月三六万六六〇〇円)に基づいて、更新料部分として七三万三二〇〇円(平成七年四月一日及び平成九年四月一日支払分)、平成七年五月から同九年九月分まで(二九か月分)の不足賃料部分として合計四八万一四〇〇円を支払ったことを認めることができる。
(2) 更新料
原告は、被告に対し、平成七年四月一日の本件契約更新に伴う更新料として、四五万円及びこれに対する催告後の平成八年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めている。
そして、前記認定事実からすると、被告は原告に対し、右更新料として、右四五万円及び遅延損害金を支払うべきところ、その元本の一部として三六万六六〇〇円の支払をしたことになるから、その元本不足額は八万三四〇〇円である。そして、原告請求に係る四五万円に対する平成八年六月一三日から支払いがされた平成九年九月二九日まで年五分の割合による遅延損害金の額は二万九一五七円となるから、結局、被告は、原告に対し、右合計一一万二五五七円及び内金八万三四〇〇円に対する平成九年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
(3) 未払賃料
原告は、被告に対し、平成七年五月一日から本件契約終了の日である平成八年六月二七日まで(一三か月二七日)の未払賃料差額合計一三五万五〇〇〇円(最終月は日割計算による。ただし、右金額は計算違いで、後記のとおり一三九万円となる。)及びこれに対する催告後の平成八年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めている。
そして、前記認定事実によると、被告は原告に対し、右期間の未払賃料差額合計として一三九万円(六二五万五〇〇〇円[月額四五万円として、一三か月分五八五万円、二七日分として四〇万五〇〇〇円]--四八六万五〇〇〇円[月額三五万円として、一三か月分四五五万円、二七日分として三一万五〇〇〇円])及び遅延損害金を支払うべきところ、その元本の一部として二三万〇七四〇円の支払いをしたことになるから、その元本不足額は一一五万九二六〇円である。そして、原告請求に係る一三九万円に対する平成八年六月一三日から右支払いがされた平成九年九月二九日まで年五分の割合による遅延損害金の額は九万〇〇六四円となるから、結局、被告は、原告に対し、右合計一二四万九四二四円及び内金一一五万九二六〇円に対する平成九年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
(4) 違約金
原告の被告に対する違約金の請求は、結局、本件契約終了の日の翌日である平成八年六月二八日から本件建物明渡済みまで一か月九〇万円(賃料額の倍額)の割合による金員から既に被告から支払を受けた金員を控除した残額の支払いを求めることに帰する。
そして、前記認定事実によると、被告は原告に対し、右金額の割合による違約金を支払うべきところ、右平成八年六月二八日から前記認定の被告の支払いがされた平成九年九月三〇日分まで一五か月と三日分の一か月九〇万円の割合による違約金は、合計一三五八万八七六七円(一五か月分一三五〇万円、三日分八万八七六七円)となる。これに対し、右期間に対応する分として被告が支払った金員は、一か月三六万六六〇〇円の割合の金員(当初は毎月三五万円、後に一か月一万六六〇〇円の割合で追加支払)、合計五五三万五一五七円(一五か月分五四九万九〇〇〇円、三日分三万六一五七円)及び平成九年四月一日の更新料としての三六万六六〇〇円の合計五九〇万一七五七円である。被告は、原告のした本件契約解除の意思表示の効力を争い、これらは、賃料及び更新料として支払ったものではあるが、弁論の全趣旨によると、被告としては、本件解除が有効とされた場合には、違約金の支払の一部に充てられることに異議がないものと認めることができる。
そうすると、被告は原告に対し、約定違約金として、右期間の不足分として前者から後者を控除した残額七六八万七〇一〇円及び平成九年一〇月一日から本件建物明渡済みまで一か月九〇万円の割合による金員を支払うべき義務がある。
4 以上の次第で、原告の請求は、右の限度(右の金員支払請求部分を整理すると、被告は、原告に対し、金九〇四万八九九一円及び内金一二四万二六六〇円に対する平成九年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員及び平成九年一〇月一日から本件建物の明渡済みまで一か月九〇万円の割合による金員を支払うべきことになる。)で理由があるものというべきである。
四 よって、原告の請求を、右説示の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中壮太)